2010 BestFilms

記憶が薄れないうちに今年の映画のベストを挙げてしまいたくなったので、まだひと月残っているし注目すべき新作も控えてるけれど、思いついた順に挙げることにした。


フランシス・フォード・コッポラ『テトロ』、イエジー・スコリモフスキ『エッセンシャル・キリング』、ホセ・ルイス・ゲリン『ゲスト』、クレール・ドゥニ『ホワイト・マテリアル』、鎮西尚一『スリップ(熟女 淫らに乱れて)』、ウテ・アウラント『庭園で』、マノエル・ド・オリヴェイラ『ブロンド少女は過激に美しく』、アッバス・キアロスタミトスカーナの贋作』、ペドロ・コスタ『何も変えてはならない』、ポルトガル映画祭で上映されたパウロ・ローシャの作品群。『溝』は前の日記の通り別枠ってことで。


他に印象に残った作品としては、ジェームズ・マンゴールド『ナイト&デイ』、ロウ・イエスプリング・フィーバー』、ネルソン・ペレイラ・ドス・サントス『人生の道〜ミリオナリオとジョゼ・リコ』『オグンのお守り』、三宅唱やくたたず』、イタリア映画祭のマルコ・ベロッキオ『勝利を』『母の微笑』、ユーロスペースジャック・ロジエ特集。映画祭や特集上映で上映された作品ばかりになってしまった。


雑感。今年は『テトロ』をはじめビデオ撮りならではの画の質感を活かした作品が多かったことが印象に残った。『ゲスト』、『何も変えてはならない』、『やくたたず』、『スプリング・フィーバー』あたりは、民生・業務用の安価なビデオカメラで撮影されており、それぞれ異なる魅力を持った質感に驚かされた。

安価なビデオカメラで撮影をする際に面白いのは(といっても私なんかは安価な機材の他に選択肢はないけれど)、カメラごとの特性が極端なことだと思う。苦手とする環境下だと目も当てられないような破綻した映像になってしまう機種でも得意なシーンならば驚くべき質の映像が撮れたり、また一般的にはネガティヴな要素として回避される特性も、作品の狙いにマッチしていればポジティヴに転換される面白さがある。

優れた映画作家はそういった部分に意識的なことが多く、例えばホセ・ルイス・ゲリンの『ゲスト』は10万円もしないハンディのHDVカメラ撮影だとのことだけれど、明るい場所をメインとしたシーン構成、ややハイキーのモノトーンにすることにより、俄にHDVとは思えないような肌理の細やかな映像を実現していた(パレスチナのシーンだけはこの範囲になかったけれど)。逆にロウ・イエスプリング・フィーバー』は暗部ノイズの質感を利用することで映像に生々しさを与えていた。ペドロ・コスタに至ってはいまだにSDのDVカメラで(これもおそらく暗部の質感にこだわってのことだと思う)『何も変えてはならない』を高コントラストながら暗部のニュアンスも残したローキーモノトーンの魅惑的な映像に仕上げていた。

ひと昔前だと撮影機材としてビデオを選択する基準がその目新しさだったり機動力への期待が主だったように思うけれど、今年は質感に対する配慮が特に際立っていた気がする。もっともこれらの達成の多くには最終的なキネコの処理が大きく関わっているようにも思われるのだけれど。

ともあれこういった傾向も、加速度的な機能向上によってそのうちどのカメラを使ってもだいたい暗部ノイズは低くおさえられて、高精細で、発色も美しくなってって等々で、あっという間に過去のものとなってしまうのかもしれないけれど(逆にいうと現状の民生のビデオカメラでは色の表現が不十分なところからモノクロ処理が多いのだと思う。特にハイの部分、更にいうならとぶ寸前の「赤」はまったく使えないと判断されてると思う)、改善されたらされたでまた違う問題が生まれたりするんでしょう。前回の日記にコメントで書いた「フィルムに委ねる」って話はキネコの話と『庭園で』を絡めて書くつもりだったのだけど、収拾つかなくなったので別の機会に。



最後に、ネットで集めた民生・業務用ビデオカメラ撮影の映画リスト


SONY

TRV900
アッバス・キアロスタミABCアフリカ

PD100(TRV900の業務機)
ラース・フォン・トリアーダンサー・イン・ザ・ダーク』のミュージカルシーン
ジャン=リュック・ゴダール『愛の世紀』の後半のカラーのシーン

HDRーHC9 (HDV)
ホセ・ルイス・ゲリン『ゲスト』

HDW-F900(HDCAM)
フランシス・フォード・コッポラ『テトロ』


Panasonic

DX100
ペドロ・コスタヴァンダの部屋

DVX100
ヴィム・ヴェンダースランド・オブ・プレンティ
園子温紀子の食卓』他多数

AG-HVX200MC(P2 HD)
ロウ・イエスプリング・フィーバー