大谷能生『山の音』

『官能教育』第5回~音符と身体によるリーディング~大谷能生×川端康成「山の音」、9月22日の土曜日、19時30分からの回を観ました。


舞台上には三人の女性が居り、それぞれに洗濯物をたたんだり、お湯を沸かしたり、梨を剥いたりしている。そこに、舞台隅の椅子に座る大谷氏による朗読が重ねられるのだけれど、女性たちの動作は必ずしもその朗読の内容に対応している訳でもなく、またお互いの存在に気づく様子もなく、別の時間に住む人たちが同時に舞台上にあるように、三人の女性はそれぞれの動作をそれぞれのペースで続けている。ただ、たまに左のスピーカーや、右のスピーカーから戸外の物音のような音声が流れると、作業をする手を止め、そちらを眺めたりする。そのうちおそらく客の誰かが会場後方のバーカウンターに、グラスを置いた。木製のカウンターとグラスの触れた、コトッというような音はもちろん観客にも届いたけれど、背後で起こった出来事でもあるし、誰も目を向けなかった。ただ舞台上の女性だけがその手を止め、俯いていた顔をあげ、音のあがったあたりへ視線を向けた。その瞬間に、舞台上の役者こそがリアルな存在となり、観客は虚構の存在に変質させられたようだった。観客は、聞こえているのに聞こえていないかのように振舞う者であり、役者との関係において、こちらからは見えているのにあちらからは見えない存在だった。そしてやがて自身が虚構であることを認め、ほとんど幽霊のような存在となって舞台上の彼女たちの周りを漂うように、その一挙一動を、うなじを、足の裏を、ただ一方的に眺めることの愉しさに浸っている。そんな観賞体験でした。とても面白かったです。


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